光る風 2 (P☆snapshots 179)

 
 

「子供の’ふり’だったのか・・。
レオニードと同じ状況なんだと、ずっと思っていたよ。
それに、何かを変えてしまいそうで 聞けなかった・・。」
 
 
 

「聞けなかったよね、お互い。」
 
 
 
 
- 柔らかな光・・。 今日は、春の風が来ているんだね。
 

 
 
ぼくは、ポラリスで、コンちゃんの次に生まれたらしいんだけど、
正確なことは よくは知らない。
気づいたときにはもう、レオもコンちゃんもユリちゃんもいたと思うし、
ポラリスは「星」だったし、
プログラマーとして、空と海で星を包みながら世界を整える仕組み作りに
取り組んでいたから。
 
ぼくの頭の中には、常に’コード’があった。
仕組みを作ってからは、それを書き換えることで環境の調和を保っていた。
 
 
太陽のレオ、月のユリちゃん、雲のコンちゃん、空と海のぼく。
レオを中心とした星、ポラリスを育てるプログラムの中で、
ぼくたちの役割は、生まれたときから決まっていた。
 
レオが思いを形にする。
コンちゃんが、そのおさまり具合とか、足りない部分、過剰な部分なんかを
空だけでなく地上から、川を流れながら、いろんな角度から観察する。
ユリちゃんが、レオが現しきれなかった部分を探し、光の届かない時間帯の様子を観察する。
それらをもとに、ぼくがバランスを見ながらコードを書き換える。
そうやって、ベアたちにとって快適な環境を作り、保ち、星を育ててきたんだ。
 
 
 
コードを書くのは、環境の調整をするのは、ぼくの役割。
だから、ポラリスの空に黒いガスが発生したのは、ぼくが処置してこなかったせいなんだ。
 
推測だけど カイトは、一時的に太陽と月の関与を切ってポラリスの光の量を一定にし、
代わりに、星の成長を止めたんじゃないかな。
せめて ここからでも、ぼくが実行したかった・・。
 
 
 
 

 
 
ぼくにとって『世界』とは、
開始の瞬間から、定められた結末に向かって自動生成を重ねていく壮大なプログラムだ。
 
あらゆる異変、つまり’バグ’は、結末を受け入れるためのカタルシスなんだけど、
多すぎるとプログラム自体が破綻してしまうから、
ぼくみたいに役割を引き当ててしまったやつが、適度にメンテナンスもしているのだと思っている。
まぁ、メンテといってもゲームのようなもので、
バグ(=虫)を見つけ出して取り除くコードを組み込んでいくわけだから、
それなりに楽しいんだけどね。
 
調整役をしていて 嬉しいのは、上手く書けて 期待に沿える結果を実現したときと、
その結果-例えば美しい空-に、みんなが感動しているのを見たとき。
 
正直言って、みんなが「楽しい」とか「きれい」とか「悲しい」とか言い合う理由は
理解できなかったけど、
そんなふうに心に響く風景を どこまでも柔軟に実現するポラリスにすることは、
きっとレオやみんなにとって良いことなんだろう、と思っていて、
頑張ってきたつもりだった。
 
 
なのに、レオは去って行った。
 

 
 
しかも、ぼくとしたことが 反射的に彼を追いかけていて、
『’感情’と’共感’が物理的な力を持つ』ことでしか成立を証明できないような、
理解不能な構造の世界に入り込み、
要らない力は温存されているのに肝心なコードが書けない 小さな体に押し込まれ、
自分が引き起こしたバグでおかしくなりかけているポラリスには
どうやっても帰れなくて・・・
 
頭がおかしくなりそうだった。
 
 
 
 
*前回のお話はこちらです。
 
 
 
 
 
***  ***  ***
 
 
今日はシュンと東日本大震災の報道特集番組を観ました。
ずっと、いつも忘れません。
被害にあわれたみなさまに、笑顔になる時間がたくさんありますように、
お祈りいたします。
 
 
 
 
 
 

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