光る風 1 (P☆snapshots 178)

 
 
知らなかったよ・・。
 
ぼくは、コンちゃんも、レオと同じように記憶を失くしていて、
自分だけが、力も含めて残されてしまったんだと思っていた。
 

 
 
そしてその原因は、ここを作ってレオを誘い出した ぼくたち以外の誰か、
カズキかカイトかシュンの行動にあると考えて、探っていたんだ。
 
原因がわかれば、目指す結末もある程度予想がついて、
この世界にあらかじめ定められたプログラムを読み取れるはずだから、
そこから、ぼくにできることを見つけて、
レオとコンちゃんを助けて帰るつもりだった。
 
それに、ユリちゃんや竹くんや、ポラリスのみんなに迷惑をかけてしまった分、
ぼくが入り込むことで生じさせてしまったバグを、自分の手で改善したかった。
 
だけど、ここでのぼくは 信じられないくらい小さくて、
思うように動くことができないんだ。
瞬間移動力はあっても、前みたいに全方位に広がって見渡すことができなくて、
視界が常に狭い。
その上、ポラリスなら、頭の中でコードを書き換えられたのに、
ここではいちいち巨大なパソコンが必要で、
カズキかシュンに助けてもらわないと、触ることさえできない。
 
しかも、苦労して分かったのは、
この世界は、シュンの未修得の技術で書かれたコードと
理解不能のプラスアルファで出来ていて、
壁が強固で融通が利かなかったり、時間軸の縛りが極端に緩かったり 混沌としていて、
ぼくの手には負えそうもない、ってことだった。
 
それなのに、まるでぼくを罰するみたいに、
同じくらい小さいカイトが、ポラリスの問題をあっさり解決しちゃうんだからさ・・。
 
 
 

 
 
でもね。
正直にいうとぼくは、ポラリスを出られて、ちょっとほっとしたんだ。
 
コンちゃんは、思ったことはない・・?
望んで空や海や雲を引き受けたわけじゃないのに、
生まれたときには、役割が決まっていたなんて、理不尽すぎやしないかって。
 
やりがいは、あったよ。
でも、みんなにとっての「当たり前」を守るために必死でがんばったって、
「当たり前」の大切さに いちいち感謝するひとなんていやしない、
虚しくなるときは多かった。
ベアたちのように生きたいと思うことは、何度もあった。
 
だからこの家で、小さくて無力な姿と引き換えに、
「享受する側」に回れたことは嬉しかった。
幼い見た目のまま、何も知らないフリで振る舞ったら、
どんどん優しく甘やかしてもらえるようになったんだ。
なんて気楽で心地良いんだろうと思った。
 
 
いつしか ぼくは、ちぐはぐになっていった。
大人のままの子供みたいに、心もちぐはぐになっていった。
 
混沌に踏み込み、かつてのぼくがしていたように整然とさせて
ポラリスに帰りたいという思いと、
このまま何も考えずにここを更に閉ざして全て忘れてしまいたいという思い。
相反する2つのことが、調和することなく同時に存在するなんて、
ぼくには 考えられないことだった。
 
 
自分が自分でなくなったような気がした。
 
 
 
 
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