桜を待つ日々3 (P☆snapshots 176)

 
 

 
「知らなかったよ・・。」
 
「私も。この記憶の一部が あとから直されたものだなんて考えられないな・・。
 ただ、’2013年の春’のことは、
 ブログで、シュンのプロフィールを『永遠の11歳』と書いた文章を
 なぜかずっと変えられなかったから、そうかも、とも思ったりして・・。
 ’始まり’を記しておく必要が、あったってこと?」
   
 
 

 
「カイトさんのためにね。
 戻ってくる直前にも、短い手紙が届いたでしょう。あれも’目印’だったんだ。」
 
 
 
 
ぼくは、『世界』のことを、
意識の投影のうちのある部分を、他の人たちと共有することで成り立つものだと思っていて、
生きることは、複層的に存在するその投影を、
抱えたり、手放したり、新しく作り出したりしていくことだと考えている。
 
例えていうならそれは無数の樹木や草花で、
それらが集まる大きな森が、『世界』なんだ。
形はそれぞれ違うけれど、みんなが森を持っている。
 
その樹木や草花の
地表に現れている部分が現在、幹や枝葉を伸ばすのが未来で、根っこが過去だとすれば、
常に補い合いながら育っていくそれらと同じように、
未来も過去も、変わり続けていくよね。
だから『世界』とは、変化に満ちたポラリスの森のように 豊かなものだと思うんだ。
 
 
 

 
 
ただ、この毛糸の家の世界は、違う。
同じ例えでいうなら、こっちは 七色のユリ
太陽ではなく月の光を浴びて輝く、ポラリスのユリだ。
切実な願いによって 特別に作り出され、守られたこの世界は、
本来、咲き終わると同時に消えるあの花のように、限定的に存在するはずのものなんだ。
 
しかし、その過去を ぼくが変えてしまった。
 
過去が変われば、やがて還っていくべき未来も変わってしまう。
ここでは許されないことだ。
だからカイトさんは行ったんだ。
太陽が戻るまで、ポラリスが安定して存在し続けるように・・。
 
 
 
 
 
ぼくにできることはただ、
これ以上何も変えないように黙っていることだけだった。
 
 
 
 
 
*前回のお話は、こちらです。
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