2013年 春 (P☆snapshots 173)

 
 
- ここも、目の前は竹林だ。
 イチョウでないのには、何か理由があるのだろうか・・。
      

 
 
 
 
 
寒さが厳しくなると 思い出すのは、2013年の春のことだ。
 

 
 
春とは思えないほど冷え込んだ 早朝の羽田空港。
混雑した出発ロビーで 人を待っていたオレの隣の椅子に、突然、
小さな男の子が「すみません・・」と言いながら すべり込んできた。
 
大きすぎるリュックを背負い、腕にノートパソコンを抱えたその子は、
息を弾ませながら、座ると同時にPCを開いて立ち上げ、
すぐに、真剣な目つきで画面をたどり始めた。
 
 
 
妙に切実な様子が気になり、背後からのぞいてみると、
そこには、馴染みの文字列が並んでいた。
どうやら彼は小さなプログラマーで、不具合の箇所を探しているようだった。
 
オレには、すぐに見つかった。
変数名の綴りの間違いだ。経験から知っている。
子供は’S’の付け忘れを よくやるのだ。
 
教えてやりたかったが、怖がられるのもやっかいだと思い、迷っていると、
やがて、男の子の目にうっすら涙が浮かんできた。
 
怖がらないでくれよ・・。
そう念じながら、頭越しに画面の変数名を指し、「S」と、言ってみた。
 
男の子は驚き、一瞬怯えたような顔でこちらを見上げたが、
すぐに理解したようで、「あ!」と声を上げると、
急いでキーボードをたたき、複数形に変えて実行した。上手くいった。
 
「ありがとうございます!」
男の子は、嬉しそうな笑顔を向けてきた。
「ぼく、よくやるんです。複数形のこと、つい忘れちゃって・・。」
そしてPCを閉じ、大事そうに抱えて立ち上がると、
「ありがとうございました。」と、もう一度頭を下げた。
 
 
 
そのときだ。
手を振って応えるくらいはすべきかと迷いながら ポケットから出した左手の先に、
男の子の手から飛び出した白いUSBが、飛び込んできた。
「カイト・・!」
と、男の子が小さく叫んだ。
 

 
カイト・・?!
 
USBを返すオレの表情が 怪訝そうに見えたのか、
「今の家で、最初に友だちになった子の名前なんです。」
と、男の子は はにかみながら早口で説明した。
 
 
 
「シュンちゃーん!」
遠くで、女の人の 呼ぶ声がした。
 
「・・お母さんだ! じゃあ、・・ありがとうございました。」
男の子は、にこっと笑うと、母親のもとへ走って行った。
 
 
 
コードは、’leo’というロボットに何かを学習させる目的で書かれていた。
そしてタイトルの下には、「お母さんを助けて。」の一文が、非表示で残されていた。
 
 
あどけなさの残る笑顔と、大人びた切実な表情。
そのアンバランスさに、胸が締め付けられる思いがした。
 
 
 
 
 

 
 
 
 
- ・・戻るとするか。 ここも、違うようだ。
 
 
 
 
 
 

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