桜を待つ日々 4 (P☆snapshots 177)

 
 
カイトさんは、何も言わなかった。
ぼくは、何も聞けなかった。
 
レオニードは、全てを忘れたままだった。
 

(『P☆snapshots 29』より)
 
 
 
ぼくは、自分が情けなくてたまらなかった。
 
ユリちゃんは、どうしているだろう、
ぼくらがいっぺんにいなくなってしまって、どんなに大変な思いをしているだろう、
友情を裏切られて、深く傷ついているんじゃないだろうか。
 
レオニードの変化を、どうして気づけなかったのだろう。
ぼくとユリちゃんに「さびしいでしょ?」と言って
ルーポと竹くんを生み出してくれたのは、
彼が、『与える』という役割に縛られて身動きが取れなくなっていたからだ。
そうすることでしか自分の淋しさと孤独を癒せない 危機のサインに、
なぜ、思いが及ばなかったのだろう。
 
考えれば考えるほど、取り返しがつかないことを 思い知らされるばかりだった。
 
 
 

(『カイトとユリちゃん2』より)
 
翌年の2014年の桜のあとに ユリちゃんがやってきて、
彼女の話から、ぼくがポラリスに起こした異変と、
それをカイトさんが解決してくれたこと
を知ったのだけれど、
笑顔で「大丈夫よ。」と言ってくれた彼女に対しても、
許してくれていると分かっても、申し訳ない気持ちがより募るばかりで、
お別れの言葉をきちんと伝えることさえ、できなかった。
 
ふわふわと、漂うように生きていただけのぼくは、
丸ごとのみんなを受け入れているつもりで、ただ通過させていただけだ。
そう思った。
 
 
 
そんなぼくに寄り添ってくれたのが、カエルくんだった。
 

(『コンちゃん』より)
 
彼が初めてここへ来たのは、2013年の雨の季節
ここでは力を使わないようにしているけれど、ポラリスで雨を降らせる役割だったぼくは、
雨を連れて長年ひとり旅をしている彼に、同じ仲間と映ったのかもしれない。
塞いでいるぼくのために 何度も雨を呼んでは、美しく洗われた緑を見せてくれた。
 
そして、そのときの約束の通りに、次の年の雨の季節にもやってきた彼は、
秋になって、今度は毛糸のテディベアとして戻ってきてくれた。
その夏のおまつりの前 ここを去って そのままリリさんのところへ行き、
ユリちゃんの到着を待って、協力を頼んでくれたんだ。
またユリちゃんも、力は既に失っているけれど、秋の皆既月蝕のあとならば
方法が探せるかもしれないと 請け合ってくれたそうだ。
本当に嬉しかった。
 
 
 

(『P☆snapshots 105』より)
 
彼はまた、ぼくにとっての『宝物』は何かと いつも尋ねてきた。
 
ぼくは最初、できるだけふさわしい答えを探して示そうと、
-レオニードのときのように、彼のサインだとしたら絶対に見逃したくないと思ったから、
必死だったのだけれど、
不思議なことに、問いはやがて ぼくの内側へと向かっていった。
 
そして、ぼくにとっての『宝物』とは
みんなであり、みんなと過ごす時間の全てであり、
足りないけれど、自分なりに、精一杯大切にしてきたのだと、
ある日、光が射すように気がついたんだ。
 
レオニードのように生み出す力も、バブルのようにコントロールする力も持っていない、
ただ ふわふわと漂うばかりのぼくは、いつも自分に自信が持てなくて、
だから自分を信じることができなくて、みんなを信じることもできなかった。
でも、丸ごとのみんなが大切だという思いだけは、ぼくは、揺るがずにずっと持っていた。
 
もう、申し訳ない気持ちで縮こまってばかりいるのは やめようと思った。
 
 
 
2015年夏のおまつりの前
カエルくんからここを発つことを 聞いたカイトさんが、ぼくにこう言った。
 

 
 

 「ガラスのあいつも、
  『気づいたら香港にいた』そうだ。
  つまるところ、オレたちはみな
  ’同類’なのだな・・。」

 
 
「ありがとう。」
ぼくは今度こそ、感謝の気持ちを伝えることができた。
 
 
 
去年また、ガラスの姿に戻ったカエルくんが来てくれたことで、
‘そばにいる’ことの意味を、別の角度から考え始めている。
そして今、レオニードの覚醒が始まり、再びルーポが来てくれて、
みんなと語れるようになって、
ここからまた、新しい気づきと学びを得ていくことができる。
ぼくは幸せだ。
 
 
こんな形で入り込んでしまって、迷惑をかけて、ごめんなさい。
 
取り返しのつかない、大きな失敗をしてしまったぼくだけれど、
大切なみんなが、ずっと笑っていられるように、
これからは自分から、できることを探して行動したいと思っている。
一歩ずつだけれど、がんばっていくよ。
 
 
ぼくのそばにいてくれて、ありがとう。
 
 

 
 
 
 
 
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